My LOVEr IS brother 04
|
「今日、ダメなの?前は一回だけ付き合ってくれたじゃない」
毒を含む女の声に、神田は柳眉を顰める。
神田がここに務め始めて間もない頃から1日と空けずに通ってくる女・・・一度だけ抱いた記憶もある。
それで良い気になっているのかは知らないが、2回に1回はこうして誘いをかけてくるのだ。
「弟って、もう17歳なんでしょう?四六時中お兄さんと一緒に居る方が厭なんじゃないの?」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
そう思った事が無いワケではないが、赤の他人から言われてしまうと非常に苛ついた。
アレンは表情や仕草だけでも神田を心から慕っていると伝えてくる。
子供扱いはされたくないかと思って頭を撫でる事もやめていたが、今朝のアレンはそれを嬉しそうに甘受していた。
四六時中一緒にいるわけではない。アレンには学校があるし、神田にも仕事がある。
せめて夜だけでも自分が傍に居る事が出来るなら、居てやりたいと思っただけだ。
仮にも店の常連客を手酷くあしらうわけにもいかず、どう断るべきかと思案していたとき。
チリン、と扉に付けられている入店を知らせるベルが鳴った。
「いらっしゃいま――――・・・モヤシ?」
頬や銀灰色の瞳がうっすらと赤いのは、息を乱しているところから見て走ってきたせいだろうか?
神田が眉を顰めてアレンをジッと見つめていると、アレンはことりと首を傾げた。
それは特にいつもと変わらぬ仕草で、違和感を憶えながらも手招きする。
「どうかしたのか?」
「うん。兄さんに話があって――――」
「えー!?この子が弟っ?全然似てないのね〜」
突然の高い声に、アレンはビクリと肩を竦ませた。
女は口許をキュッと上げて椅子から下り、アレンに右手を差し出す。
よく解らないまま差し出された右手と握手したら、今度はグイッと引っ張られて、耳元で囁かれた。
「私、あなたのお兄さんの彼女なの」
ふわり、と。
香った匂いに、哀しい記憶が甦る。
―――――あぁ、あの時の。
「あのね、今日お兄さんのこと借りても良いかしら?」
虚ろな瞳になっていないだろうか、どこか冷静にそんな事を思いながら、アレンは女と兄の顔を交互に見た。
女の囁きは神田まで届かなかったらしく、訝しげにアレンを見ている。
女は楽しそうに、残酷なまでに可憐な笑顔を浮かべていた。
「兄さんの時間は、兄さんのものですから」
どこか曖昧な返事を返すと、女は至極嬉しそうに手を叩いた。
「決まりね!今日は帰さないわよ?」
色気を含んで神田のいるカウンターへと戻る女を、恨めしいとは思わなかった。
ただやっぱり、以前同性から告白されたときのように『羨ましい』とは、思って。
女であれば・・・女でなくても、せめて他人であれば。
踵を返して、店の扉に手をかける。
これ以上この店に居れば、哀しみに支配されて、それだけで死んでしまいそうだったから。
「おいっ、話は・・・!?」
「帰ってからで良いです」
慌てた兄に笑顔を見せて、手を振る女へ一礼して、アレンは店を後にした。
どこをどう通って帰ったのか、よく憶えていない。
脳を支配していたのはあの女の言葉と、1年前に兄が付けて帰ってきた女物の香水だけ。
「良いな・・・抱いてもらえて」
自分以外は誰もいない静寂に包まれた部屋。虚しく響いた声に、アレンは嗤う。
帰ってから、おそらくずっと・・・アレンはソファに寄り掛かって、そんな事ばかり考えていた。
以前は毎晩自分を抱き締めて眠ってくれていたあの腕が、あの女を抱いたかと思うと、どうしても笑いが込み上げた。
それと同時に溢れそうになる涙は、ギリギリのところで堪えて。
「ご飯、作らなきゃ・・・」
口に出せば、行動に移せる。
とにかく今は、自分がしなければならない事をするのだ。
後は覚悟を持って兄を出迎えるだけ。
女の匂いをこの空間に持ち込んでも、シャワーを浴びればそれらは流れる。
あの時のように、感情に任せて泣く事は許されない。
刑事から聞いた話は、そのままを伝えれば良い。
きっと、以前と同じように・・・・・・0時を過ぎれば帰ってくるのだろうから。
開かない扉を前に、アレンは膝を抱え込んで座っていた。
廊下の先にあるリビングの大きな窓からは、すでに朝日が差し込んでいる。
神田は0時を過ぎても、帰らなかった。
どれだけ待っても帰ってこない人の帰りを待つのは、両親の時と同じ。
けれど唯一違うのは、ここに優しい腕で包んでくれる兄がいないことだ。
『俺がいるから』と・・・そう言って慰めてくれた兄が、どれだけ起きて待っていても帰ってこないだけ。
「だ・・・じょ、ぶ」
帰ってくる。
両親の時のように、絶対に帰って来ないわけじゃない。
「ぜったい、かえって・・・・・・」
女の事など、頭の片隅にも留まっていなかった。
ただ帰ってきてくれれば良い。
それだけで良い。
これ以上の事を望むのは贅沢だとも思えて、アレンはただ神田の帰りだけを願った。
カツン・・・、と玄関の外に靴音がして、アレンは顔を上げる。
自分の家の前で止まる足音、回るノブを見て立ち上がり、アレンは10数時間ぶりに笑顔を浮かべた。
手前に引かれる扉に、自分から近付く。
酷く、温もりに触れたくて・・・アレンはそこにいる筈の兄の為に、自分から扉を開けた。
「兄さ―――ッ!!」
扉を開けた先に居たのは、背の高い中年の男だった。
最愛の兄とは、似ても似付かない・・・見知らぬ男。
兄の帰りに歓んでいた笑顔は、曖昧なまま静止してしまった。
「あの――――」
「マナ・ウォーカーの、息子だな?」
「え・・・?」
父を知っているこの人は誰なのだろう。
父の友人だろうか?けれどこんな早朝に押し掛けてくる知り合いも珍しい。
それに何より、父はもういない。
「そうです、けど・・・」
ヒュンッ、と・・・・・・何かが空を斬った。
耳元で音が聞こえた直後、頬に微かな痛みを感じる。
アレンは左目の下あたりに手を添えて、ぬるりとした感触に目を見開く。
目の前にはナイフを手にした男が、歪んだ笑みを浮かべて、それはどこか苦しそうで。
「君の両親を崖の下へ落としてしまったのは、私なんだ」
だから、
「君達兄弟も、同じ場所に送ってあげなくちゃ可哀相だと思ってね・・・・・・」
自分の上に馬乗りになった男を、アレンはただ見ている事しか出来なかった。
back next
|
ジャジャッ、ジャージャー!!(火サス。嘘です)
この男の人は予想外(想定外)の登場です。
友情出演・・・?(誰ですか)
アレンが玄関で神田の帰りを待っていて、帰ってきたところで「遅かったね」と
無理矢理作った笑みを浮かべたら神田が「お前が言ったんだろうが。俺の時間は俺のものだって」
と言わせてアレン君に傷付いてもらって〜・・・・・・
的な流れだったような・・・気が・・・・・・
所詮、予定は未定ですが・・・。
・・・・・・何でこのサイトはアレン君を危ない目に遭わせるのでしょう。
canon 05 11 24 thu