My LOVEr IS brother  03


いつの間にか降り出していた小降りの雨。 どちらかと言えば天気雨の中を、アレンは寂しいような・・・けれど何処か満たされたような気持ちで歩いていた。 自分の中に秘めておくには大きすぎる、けれど兄にこれ以上心配事を増やす真似もしたくなくて、アレンは困っていた。 両親の事故にはある意味で加害者がいた。それを知ったら、神田はどうするだろう。 神田は普段ならば物事を冷静に判断出来るけれど、家族の事やアレンの事に関しては別だ。 小学校の頃、隔世遺伝で白銀に近い真っ白な髪を持って生まれたアレンを苛めようとした子供を、神田は竹刀を片手に脅した。 目の据わっていた兄を怖いと思ったのは、確かあれが初めてだったように記憶している。 「どーしよー・・・」 「なぁにが?」 「っ!?」 背後から抱き付かれ、アレンは突然の事に驚いたまま鞄を放り出して回し蹴りを繰り出した。 ハッと気付いたときにはすでに相手の顔の前まで自分の足が上がっていて――――、 「ごめんなさ―――ッ!!」 い、という前に相手を確認してから技を繰り出すべきだったのだが、急には止められない。 ドンッと足に衝撃が奔り、おそらく2mは吹っ飛んだかも知れない相手へ視線を向ける。 だが背後にいたのはアレンのよく知っている人物で・・・ 「ラビ!!」 「やっほー、アレン・・・いきなりは危ねーさー・・・・・・にしてもすっげーな。さすが店長の弟子」 荷物を持っていない方の腕でホールドした技を解き、ラビは困ったように微笑んだ。 ラビはクロスの店のバリスタで、神田とは剣道道場で知り合って以来腐れ縁のように仲が良い。 アレンの事も昔から可愛がってくれて、つい1ヶ月前も遊びに連れて行ってくれたばかりだ。 「ごめんなさいラビ・・・大丈夫ですか?あの、荷物も・・・」 ラビの服装から見て、店の買い出しだろう。 もし今の蹴りで中の物が使い物にならなくなっていたらと思うと、アレンの血の気は一気に引いた。 「大丈夫さ〜。で、何が『どーしよー』?」 「あ・・・えーっと・・・・・・」 身内の話・・・それもあの事故の事を多くの人に言うのは躊躇われてアレンは視線を彷徨わせる。 ラビを信用していないとかそういうわけではなく、アレンは神田に話す事自体を迷っているのだ。 ラビに話した後で神田に話した事がバレれば、あの兄は間違いなく怒る。 それを分かっているから散々悩んだあげく、アレンは結局遠回しに相談する事に決めた。 「例えば、第三者から凄く重大な事を聞いたとして・・・それを聞いた人はもう一人にその事を話そうかどうか迷ってるんです」 「ふーん、ユウには話せないような事なんか?」 「いえ、言わなきゃ怒られるような事かも知れないんですけど・・・・・・」 「あ、やっぱユウとアレンの話?」 「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・あぁああああああ!!?」 「アレンは昔っから可愛いなぁ・・・」 どんなに隠そうと思っても、アレンはとにかく嘘が下手。 加えて今目の前にいるのは洞察力に長けたラビ、この青年に隠し事をしようという方が間違いというものだ。 アレンは口をパクパクとしながら涙目になり、ガックリと肩を落とす。 感情の浮き沈みが激しいアレンを面白そうに見遣り、真っ白な髪をクシャクシャと撫でてやった。 「話の核心を訊く気は無ぇし、ユウにも言わない。それで、迷ってんだ?その『重大な話』を言うか言わねぇか」 「はい・・・」 消沈したアレンの頭をポンポンと叩き、ラビは歩き出した。 人の良さからか、ラビは道に落ちているゴミを拾ってはゴミ箱に投げ入れていく。 「俺はユウじゃ無ェからわかんねーけどさ、そんな風にアレンが悩む事自体、ユウは嫌なんじゃねぇの?」 「僕が悩む事自体・・・?」 「俺から見たらユウの一番大事な存在はアレンなわけ。アレンがいなきゃ面倒臭がりのユウがあんな必死に働くわけ無いし・・・」 ラビの言葉に、アレンはすぐ反応した。 兄は厳しいけれど優しくて、妥協なんて真似は滅多にしない。 面倒な事は率先してやってくれたし、アレンに手伝わせたのは生きていく上で必要な事ばかりだった。 その兄が面倒臭がりだなんて・・・と、アレンは首を傾げる。 「兄さんは学校でも真面目だったんじゃ・・・・・・」 「まっさか!!面倒な事は率先して俺に押し付けてたさ!!!」 学生時代を思い出して声を荒げるラビに、その言葉が真実であると教えられる。 自分の記憶には無い兄の顔が垣間見られて嬉しい反面、そんな兄を知らない事を寂しいとも感じた。 歩調の落ちたアレンを振り返り、でもな・・・とラビは微笑む。 「お兄ちゃんは可愛い弟に格好悪いトコ、見せたくなかったんだろ?」 ニヤリと口端を吊り上げ、ラビはまた同じ速度で歩き出す。 「アレンもさ、隠さないで言えば?自分の気持ち」 「僕の気持ちって?」 突然何を言い出すのか分からない兄の親友と平行して歩き、その横顔を見上げる。 ラビは真っ直ぐ前を向いたまま少しだけ躊躇して、アレンを近くのベンチまで引っ張っていった。 空いたベンチに腰掛け、買い物袋の中から飲み物を取りだしてアレンに渡す。 店で必要な物では無いのかとアレンは慌てたが、店長の雑費だからと笑ってプルタブを開けた。 「先に謝っとく。立ち入った話してゴメンな?」 「?」 「アレン、ユウの事好きだろ?親愛じゃなくて・・・兄弟愛じゃなくて、恋愛感情で」 「―――――ッ」 手の中から缶ジュースが消えたのに気付いたのは、中身が地面に半分以上零れた後だった。 自分でも血の気が引くのが分かって、アレンは片手で口を覆う。 急に、目の前が真っ暗になった。 「あー、アレン・・・誰も責めたりしねーから、泣くな」 「ち、ちがっ・・・ビックリ、して・・・・・・ッ」 ずっと隠してきた、自分にとっては最大の秘密が誰かに気付かれているなんて思いもしなかったのだ。 ボロボロと零れる涙を拭ってくれるラビから顔を背け、首を振る。 気を抜けば後ろに倒れそうで、それだけは何とか堪えた。 「に、兄さんも・・・兄さんも気付いてるんですか・・・・・・?」 もし兄に気付かれていたなら、これまでの道化は何だったのだろうか。 どんなに大事でも、実の弟が自分を恋愛対象として見ていたと気付いた時の驚愕はどれ程のものだろう。 与えられてきた惜しみない愛情を裏切るような真似をしてきた自分。もしかしたら兄は、こんな自分を嫌うかも知れない。 結局は己の事しか考えていない自身を、アレンは嫌悪した。 嫌われたくないなら想いを止めれば良い。けれど無かった事にするには、この気持ちは膨らみすぎている。 「ユウから聞いた事は無ェけど・・・アレンさ、ユウのこと『お兄ちゃん』って呼ばなくなっただろ? その辺の違和感はあるみたいさ」 呼称を変えたのは確かに神田を意識し始めた頃、あの頃は神田も幼くて気付かなかったのかも知れないけれど・・・・・・今は? 元々勘の鋭い兄の事。ラビに気付かれていた今となっては、時間の問題かも知れない。 青褪めて俯いたままのアレンを心配そうに見つめながら、ラビは小さく息を吐き出した。 「ごめんな。無責任な事言って・・・・・・アレン、ずっと誰にも言う気無かったんだもんな?」 的を射ている言葉に、また涙が溢れそうになる。 自分の心の奥底で封じ込めてきた感情が、ある日を境に暴走しそうになって、・・・だから、兄と一緒に眠る事を止めたのだ。 抱き締めてくれる腕が、傍で聞こえる息遣いが、自分が望む愛情のカタチであれば、と。 そう願ってしまったから。 弟としてではなく、一人の人間として愛されたいと願ったから。 「・・・いいえ・・・・・・大丈夫です。僕はこれからも、誰にも言うつもりは無いですけど・・・」 唇を噛んで、顔を上げる。 美しい銀灰色の瞳に生まれた新たな決意に、ラビは哀しくなった。 「ありがとうございます。泣けて、スッキリしました」 はにかんだように笑うアレンを強いとも思うし、とても脆いとも思う。 人の感情を動かすのはとても難しいから、『ユウだって受け入れてくれるかも知れない』などと曖昧な発言は出来ない。 アレンは知らないだろうが、神田は高校在学時に何人もの男女から声を掛けられていて。 男からの告白に関しては『フザケんな』の一言で終わらせていた。 女からの告白も似たような返答を返していたが・・・男の時ほど冷たい視線でも無かったはずだ。 そんな過去を知っているから、この可愛いアレンに残酷な事は言えない。 アレンの傷を塞ぐ者がいるとすれば、それはこの広い世界では神田しかいないのだ。 「兄さんにも、『重大な話』はします。怒られるの・・・嫌ですから」 えへへ、と笑うアレンの頭を優しく撫で、ラビは地面に落ちた缶をゴミ箱に投げた。 ごめんなさい、と眉を寄せるアレンの髪をグシャグシャに掻き乱して。 「俺、寄り道して帰るからさ。ユウにそう言っておいて?」 「え?あ、・・・・・・はい。わかりました」 つまり、その間に『重大な話』済ませば良いという配慮だ。 にこやかに笑って去っていくラビの背中に手を振って、アレンは神田の務める店へと走った。 Back  next
・・・・・・あまりにも“兄弟”が強くて、書いてるこっちがガクリとくる・・・((orz でもただベタベタ愛し合ってたら元帥神田とか海賊神田(神田基準・・・?)で十分ですしね・・・・・・。 canon  05 12 02 fri
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