My LOVEr IS brother 02
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始業のチャイムが鳴るより1時間近く早めに学校に着き、アレンは神田に『行ってきます』と笑顔を向けて校門をくぐった。
都内でも有名な高校の正門から校舎までは桜並木があり、春には豪華絢爛な光景が生徒や新入生を迎えてくれる。
自宅から駅まで徒歩で15分、それから電車に乗って30分ほどにあるこの高校は、数年前まで神田も通っていた。
今は緑の葉すら付いていない桜並木を歩きながら、アレンはもう一度触れられた頭に手を置く。
両親がいた頃も、死んだ後も、神田のアレンの頭を撫でる行為は続いていた。
それが無くなったのは神田が高校2年、丁度今のアレンの歳の頃だ。
「意識し始めた時から・・・かなぁ」
いや、本当はもっと前から兄を意識していたのかも知れない。
『兄』と解っていながら、一人の『男』として見てしまったのは・・・・・・。
「父さん達のお葬式の日・・・から・・・・・・?」
自分の中でも曖昧な記憶を手繰って、アレンは自嘲する。
初めて好きになったのは実の兄で、それは今もずっと変わらない。けれど―――――。
叶わない。
想いも、願いも、口にする事すら出来なければ叶う事など絶対に有り得ないのだ。
世間一般から見れば近親相姦でしか無いこの想いを、一体どれだけの時間抑え込んできただろうか。
足を止めてみても変わらない時間の流れ、これからも狂うことなく進む時間、アレンはこの想いを殺し続ける覚悟を持っていた。
両親の葬式。
10歳にもなれば『死』の意味は理解出来る。
もう二度と帰らない2人を嘆く大人達、自分たちに向けられる多くの視線、・・・あの場で泣く事は簡単だった。
けれどそうしなかったのは・・・・・・、兄である神田が泣いていなかったから。
自分を抱き締める腕の強さや、二つの棺に向けられる眼差し、何より優しく頭を撫でてくれていた掌が。
どうしても忘れられなかった。
思えばあの日から、アレンはずっと神田だけを想っていた。
中学の頃に告白された事はある。けれどアレンの心は世界でたった一人に向けられていて、当然断った。
高校に入って同性からも一度告白のようなものをされたが、その真摯な気持ちを丁重に断った事もある。
それと同時に、自分に告白してきたあの青年を羨ましくも思った。
(男同士でも、恋人にはなれるのに・・・・・・)
同性の上に血の繋がりがある兄を愛しても、報われる日など来ない。
だから身勝手でも、羨ましかった。
「一回だけ・・・あったかな・・・・・・9時以降に帰ってきた日・・・」
たった一度だけ。
アレンが高校に入って間もなかった頃、神田は0時過ぎに帰ってきた。
帰りが遅れるという連絡もなくて心配していたアレンの元に帰ってきたのは、酒と香水の匂いを纏った兄だった。
哀しみと悔しさが込み上げてどうしようもなくなったアレンは泣き出し、それを見た神田は慌てて、何度も「悪かった」
と口にした。9時以降は兄と2人でいたから、突然訪れた一人の夜に不安になったのだとでも、神田は思ったのだろう。
あの日以来、神田は絶対に日付が変わって帰るような事は無くなった。
アレンの中に覚悟が生まれたのもこの日だ。
神田はこれまでに異性と付き合った事は、多分無いだろう。
身体だけの関係ならあるかも知れないが、アレンを生活の中心に置いていた神田が女達に時間を割いていたとは思えない。
そうして、神田の時間を奪ってきた罪悪感もある。
だから・・・・・・最愛の兄が幸せならば、自分の想いなどどうだって良いのだ。
もしも神田が誰かと付き合う事になれば、相手を笑って迎え入れるくらいの器量は常に用意しておかなければならない。
そしていずれは、あの家を出ていく事になる。
家族で育った思い出溢れる場所は長兄に渡し、自分はどこか地方にでも就職すれば良い。
傍を離れる事は想像するだけで泣きたくなるほど辛いけれど。
「お兄ちゃんが幸せなら、僕はそれで良い」
真実を口にすれば、決意も固まる。
意識し始めてから呼ばなくなった呼称を頬を染めながらもう一度口の中で繰り返し、止めていた足を校舎に向けて進めた。
「アレン君」
6限が終わり、帰り支度をしていたアレンの元に一人の少女がやってきた。
隣のクラスで、アレンの幼馴染みでもあるリナリー・リー。
明るい性格と可憐な容姿が特徴の彼女は校内でもかなりレベルの高い美少女で人気もあるが、教頭である兄、
コムイのおかげで告白した勇者はいまだかつていないらしい。
アレンも生物学上は『男』なのだが、コムイはアレンを『無害』に分類しているのだ。
ある種名誉な分類だが、アレンはただ苦笑を洩らすばかり。
「どうかしました?」
「兄さんが呼んでたよ?アレン君にお客さん・・・だったかな?第二応接室だって」
「学校なのに、ですか?」
「うーん、誰かしらね・・・。あ、兄さんは用事があっていないからお客さんと2人になるんだけど・・・・・・」
「大丈夫です。教えに来てくれてありがとうございました」
ニッコリと笑顔を向けると、リナリーも同じように微笑んだ。
「今度、一緒に遊びに行きましょうね!駅前に素敵なフルーツパーラーが出来たの」
「えぇ、是非!」
嬉々として約束を交わし、帰り支度を終えたアレンは指定された第二応接室へと足を運んだ。
木造の扉をノックし、中からの応答でノブを回す。
扉を開けた途端芳しいコーヒーの匂いがして、おそらくコムイが用意してくれたのだろうと想像出来た。
豪奢なテーブルを挟んで大きめのソファが二つ設置された応接室。端には一人用の腰掛けもあった。
「アレン君、ですね」
「あっ、はい!こんにちは・・・」
応接室の豪華さに驚いていたアレンは挨拶が遅れた事に身体を強張らせ、声が裏返ってしまった事を嘆いた。
「初めまして・・・私はこういう者です」
内ポケットから何かを取りだし、手帳のようなソレをアレンに見せる。
それは一目でこの人物が誰かを教えてくれるもので、アレンは緊張した面持ちで相手を見つめた。
「刑事さんが・・・僕に何か?」
アレンが警察手帳と認識すると、中年風の・・・けれど瞳の輝きは失っていない刑事はそれをまた内ポケットに仕舞い込んだ。
一つ一つの動作が落ち着いている刑事に緊張が解けず、アレンはグルグルと考えを巡らす。
自分は警察沙汰になるような行いをした事は無い。
あの兄だって、気性は少し荒っぽいがこれまでに大きな揉め事を起こした事も無い筈だ。
扉の前に立ったまま不安げな顔をするアレンを見遣り、刑事は軽く首を振って苦笑混じりに微笑んだ。
「君や、君のお兄さんの事じゃありません。座って話をしましょう」
どうぞ、と向かい側のソファに促され、アレンは困惑しながらも腰を下ろした。
自分の為に淹れられたのだろうオレンジジュースを手に取って半分ほど飲み、グラスを置く。
「7年前―――――」
記憶を遡らせる言葉に、アレンはビクリと肩を竦ませた。
「私はあの事故の担当でした・・・」
「僕たちの両親が死んだ・・・あのガードレールでの事故ですか?」
視界の悪い雨の日、カーブを曲がりきれずにガードレールを突き破った・・・父と母を乗せた車。
遺体はとても見られたものではなかったと・・・警察関係者や大人達は言っていた。
「そう・・・そうなんですアレは・・・・・・事故だった。事故だと・・・思っていたんです・・・・・・」
「事故だと・・・『思っていた』って・・・・・・」
この刑事が何を言っているのか、アレンには理解出来ない。
突然学校にまでやって来て、アレンを呼び出し、過去の哀しみを掘り返してまで―――――この刑事は何を伝えに来たのか。
震える奥歯をギュッと噛み締め、恐る恐る言葉の先を待った。
「視界も悪く、あの辺り一帯は事故が多発して・・・あの年でもすでに何件かの死亡事故がありました。
だから私たち警察は・・・あのスリップ事故をただの『事故』として片付けた。
もちろん捜査はしましたが、生憎の雨で物証は何もかも流されてしまって・・・だから気付けなかった。
崖から落ちてバラバラになった車体の部分的な破損も、警察は気付けなかった・・・・・・」
頭を深く下げている刑事を前に、アレンはどうして良いかわからなくなる。
ここに兄がいればどう対処するのだろう。
「アレは・・・事故ではありません。いえ、事故ですが・・・あの事故の原因はご両親の運転ミスではありませんでした」
――――――――――事故ジャ、無イ?
「あのカーブは50kmで曲がるように指定されています。事故が起こるにはそれ以上・・・せめて70kmまでスピードを
上げなくてはいけません。
けれど、私はどれだけ経ってもあの時の事故に何か違和感を覚えて・・・・・・ご両親の過去の運転経歴を見ても、
あのカーブでスピードを上げるような事をする方達とは思えませんでした。だから、単独でこれまで捜査してきたんです。
もちろん警察側に公には言っていません。言えば左遷されるかも知れず、それでは真実を突き止められませんでしたから」
一度息を吐いてコーヒーを口に含み、喉を潤す。
酷い後悔に苛まれた刑事の顔は見ているだけで哀しくなり、アレンは少しだけ目を伏せた。
「事故の資料、聞き込み、手当たり次第何でも良いから情報をかき集めて・・・・・・調べれば調べるだけ不審な点が上がりました。
そして一週間前・・・事故の写真の中に壊れた車体に付着していた別の車の塗装がこびり付いていたのを見付けました・・・・・・」
雨によって、タイヤの摩擦後も道路に付かなかったのだろう。
7年間、気の遠くなる時間を・・・この人はたった一人で捜査してくれたという。
50代後半くらいの刑事の頭はほとんどが白髪で、頬も痩けている。
こんな風になるまで捜査して、突き止めた真実が絶望だったとき・・・どれほど辛かっただろう。
後悔の念に苛まれながらも真実を伝えに来てくれた事に対する感謝はあっても、当時捜査を『事故』として処理した警察や、
ましてやこの刑事を恨む気などアレンには無い。
鼻を啜り、涙を流すこの刑事は、自分たち兄弟に申し訳ないと涙を流してくれている。
それだけで、アレンの頬にも温かい涙が伝った。
あのカーブで、対向車を避けようとした両親。
対向車は避けたけれど、雨でスリップしてしまった車体。
その拍子に対向車と僅かに接触して、対向車は・・・・・・憶測だが、そのまま逃げたのだ。
ガードレールを突き破ったとき、2人は絶望の中で何を思っただろうか。
遠い遠い過去、雨の中の絶望に哀しみを感じ、アレンは大きく首を振って刑事の顔を覗き込んだ。
「父達も、歓びます。こんなに一生懸命に・・・捜査してくれる人がいて・・・・・・」
「この事故は・・・私が最後までやり遂げたかった・・・けれど・・・私も今日で警察を離れる身なんです・・・・・・」
「・・・いいえ。あなたの大事な7年間を、僕たち家族の為に・・・・・本当に感謝しています」
「この件は・・・私の信頼している部下が引き継ぎます。希望は・・・分かりませんが・・・・・・」
あれからもう7年も経っているから・・・それは仕方のない事だろう。
「真実を見付けて下さって、ありがとうございました」
穏やかに微笑んだアレンの顔を見て、刑事はスッと立ち上がる。
何だろう、と不思議そうに見上げると刑事は右手を額の前に翳し、敬礼してみせた。
アレンはフッと笑みを零して立ち上がり、見様見真似で同じ行為を返す。
様には為らないだろうが、刑事は嬉しそうに笑った。
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何ですかこの三流ドラマ。
サスペンスとか見ないのでよくわからない・・・((orz
車も運転出来ないのでわからない・・・。
普段シリアスと言えば失恋か死にネタだと思っているので、
こんな風なのは書いた事がありません・・・。
・・・・・・あぁああ・・・・・・原作ベースが書けたら良いのに・・・。
どうして私はパラパラしか書けないのか((orz
canon 05 11 26 sat