番外編−初めて尽くし 前編−

あれから1ヶ月くらい経って、波を滑る船は現在東に向かっているらしい。 前後左右見渡しても広がるのは海と小さな島ばかりで、首をグッと上に伸ばしてもそこに在るのは青い空だけ。 トマさんから貰った塗り薬とカンダがこまめに包帯を替えてくれるおかげで僕の左腕はほとんど痛みを感じなくなっていた。 カンダはとても哀しそうに『跡が残る』って言っていたけど、僕はやみんなとまたこうして航海が続けられる事だけで凄く 満ち足りた気分で。 ・・・・・・正直、左腕の事は気にしなかった。 皮膚が引きつっているのを見る度に目を背けたくなるのは事実。 でも、みんなは白い髪もこの腕も個性的だとか、俺なんかもっと酷い傷を負ったとか言って励ましてくれた。 色々な国の人が乗っている黒耀は多種多様の文化や歴史が入り交じっていて、ラビはこの船がとても好きだと言っていた のを思い出す。 それもこれも実力とやる気が最優先主義のユウのおかげだ、とも。 ふと、僕は思いだした。 『カンダ』というのは確かファミリーネームで、ラビの呼ぶ呼称の方がカンダのファーストネーム。 呼ぼうと思った事は無かったけれど一度考えついてしまうと気になり初めて・・・・・・。 呼ぶな、と言われたわけじゃない。 『カンダ』と呼べと言われた覚えもない。 「よし!!」 立ち上がり、退屈にしていた時間に終止符を打った。 カンダは確か『ラビと航路の確認をしてくる』と言って行ってしまったので、水夫の誰かに訊けば居場所も判る筈。 僕は手の空いていそうな水夫を捜し、カンダ達の居場所を尋ねた。 「あのー、ゴズさん。カンダ達知りませんか?」 「え?あ、あぁ、アレン君か。船長達なら航海長の部屋に居ると思うよ?」 「ありがとうございます」 ゴズさんはとっても大きいけれど気は凄く優しくて良い人で・・・僕が黒耀に乗って一番に仲良くなった水夫もゴズさんだった。 ニッコリ笑ってお辞儀をするとゴズさんも笑ってくれて、僕は嬉しい気持ちのままラビの部屋に向かう。 ラビの部屋はカンダの部屋とは一番離れていて――――端と端に居れば何かが起こったとき両側から対処出来るからと 言っていた――――僕はまだ一度も入った事がない。 というのも、カンダに止められていたからで・・・・。 僕はラビの部屋に入る事にも良い口実が出来たと悪戯っ子みたいに笑ってしまった。 コンコンと2回ノックして、『開いてるさ〜』と返事が返ってきたのを確認してノブに手を掛ける。 そして直後、僕はカンダの言っていた事を理解した。 「わぁあぁああっ!!」 「げっ、アレン!?」 扉を手前に引いたと同時に大量の本が雪崩れてきて、僕は反射的に左腕を庇った。 バサバサとまるで雨のように降ってきた本や何かの資料、形の違う大陸の地図に埋もれてしまいそうになりながら、僕はど うにか書物の海から這い出す。 と、突然身体が宙に浮いた。 「だから入るなって言ったんだ」 「カンダ・・・」 脇に手を差し込まれて抱き上げられている僕は小さな子供みたいで、少しだけ顔が赤くなった・・・・・気がする。 「ごめんなぁ、アレン。左手平気か?」 「あ、大丈夫です!庇うの癖になってるだけですから」 心配しないで下さいと左腕を肩からグルグル回すとカンダが少し眉を顰めて、ラビはじゃあ良かった、と笑顔を返してくれた。 カンダは僕を抱き上げたまま器用に足下の本を避けて部屋の中に戻り、ラビは廊下に流れてしまった本や紙の束を適当に 室内にかき集めて扉を閉めた。 抱き上げられたまま入った部屋は・・・・・・何て言うか、一言で言うと、 「ここ・・・本当にラビの部屋ですか?」 「素直に汚ねェって言って良いぞ」 「酷ぇさ・・・」 そんな風には思いませんけど・・・、身体を休める場所のベッドにまで大量の本が積み上がっているのはさすがに凄いと思う。 廊下に流れ出すほど積み上がっていた本の量からも想像はしていたけれど、部屋の中は本で壁が作られていた。 慣れているのか、カンダは足下の資料を蹴って無理矢理足の踏み場を作り、その行動にラビもまた何も言わない。 本を蹴るのはどうかと思うんだけど・・・持ち主が気にしていないなら良いのかな、と納得する事にした。 ラビは木造の椅子に腰掛けて、カンダは僕を膝に抱いたままベッドに腰を下ろす。 ・・・・・?膝の上に抱いたまま? 「カンダ!下ろして下さい!!」 「下ろして何処に座るんだよ。また本の餌食になる気か?」 部屋で二人っきりのときならまだしも、目の前にはラビがいるのにカンダは全然気にしていない。 顔を真っ赤にしてそっとラビを盗み見るとバッチリ目が合って、ラビは何故か嬉しそうにニコニコと笑っていた。 恥ずかしくて仕方なくてカンダの肩に額を押し付けていると、不意にアルコールの香りがする。 「お酒・・・?」 顔を上げてカンダとラビの顔を見比べると、二人の口許には笑みが刻まれていて。 まさか、と思ってジッと睨んでいると、ラビは観念したように本の山の中からワインのボトルを取りだした。 「二人とも!みんなが働いてる時にお酒なんて――――――ッ、んぐ!!?」 言い募ろうとする僕の口をカンダの手が塞ぎ、大人しくしろと耳に囁かれる。 従わないと手を放してくれなさそうなカンダを少しだけ咎めるように睨んで首を縦に振ると、カンダはまだ警戒しながらゆっくり手を 放した。 ・・・・・・やましいと思うなら飲まなければ良いのに。 「航路の確認をするんじゃ無かったんですか?」 普段喋るときと変わらないトーンまで音を下げて、呆れたように二人を見る。 「それはもう終わった」 「終わったらお酒を飲んで良いんですか?」 ラビが以前、『ユウはアレンに強く言われると弱いらしい』と言っていた。確かに・・・そうかも知れない。 今のカンダも僕の話を聞いているようで聞いていない・・・・と言うか、聞くのは耳が痛いといった感じで。 ハァ、と一つ溜息を吐き、もうこの話をするのは止めた。 お酒は楽しみながら飲むもので、お小言を聞きながらのお酒なんてきっと美味しくない。 ちょっと甘いかな、と思ったけど・・・・働いてもいない僕が二人のする事を咎めるのは理不尽な気がしたから・・・・・・。  後編
あ、そういえばゴズ出してみました☆(物凄く思い出した) canon 06 03 06 mon
SEO [PR] 爆速!無料ブログ 無料ホームページ開設 無料ライブ放送