01:相棒


黒い煙の立ち込める戦地に、黒のエクソシストが空を見上げて佇む。 瓦礫の中には尊い命と壊れたAKUMAの残骸、淡い光を放つ―――――――神の創造物。 ――――ジリリリリリリリッ イノセンスを拾い上げた刹那、そう遠くない場所でベルの音が鳴り響いた。 溜息を一つ吐いて音の発生地に向かって歩いていくと、それはいくつもの瓦礫の破片が突き刺さった探索部隊の 傍らで止まずに存在を主張する。 運良く、と言えるかどうかは不明だが、奇跡的に通信手段が残っていた事に神田は安堵の溜息を吐いた。 自分の生存を、教団で待っている最愛の少年にいち早く伝えなければならないからだ。 ――――ガチャッ 『もしもし・・・神田君?』 受話器から聞こえてきた声は聞き慣れた男のもの。 黒の教団本部室長、コムイ・リー。 「イノセンスは回収した。AKUMAはレベル3が2体。ノアが一人。後は雑魚ばかりだった」 淡々と報告すべき事だけを伝えてくる神田に、コムイは電話口で苦笑を浮かべつつ口を開く。 『ご苦労様。真っ直ぐ帰ってきてくれて構わないよ。早急に伝えたい事があるんだ』 早急と言うならば今言え、と頭では思ったが、神田は口にしなかった。 代わりに、任務の報告などよりも大事だと言わんばかりの声音で彼の者の名を呼ぶ。 「アレンは?」 『はぁ・・・居ますよ〜、僕のとな・・・・・・』 『カンダ?』 離れた所からコムイの不満そうな声が聞こえるあたり、おそらくアレンが待ちきれずに受話器を奪ったのだろう。 数週間ぶりに聞く恋人の声に目を細め、神田は血のこびり付いた塀の一角に背を預ける。 死臭が鼻をついて眉を顰めたが、そのままズルズルと壁を伝って地面に腰を下ろした。 「久しぶりだな・・・怪我、してねぇだろうな?」 『してませんよ。僕だって強くなってるんです』 少しだけ怒気を含んだ声が受話器を通して聞こえ、声音から唇を突き出す仕草が神田の脳裏に思い浮かぶ。 出会った時から変わらないアレンを容易く想像できてしまった自分に苦笑を浮かべ、神田は小さく息を吐いて立ち上がった。 「明日の朝には帰り着く。任務は?」 『入ってたんですけどラビが変わってくれました。ユウが帰ってくるさ〜って・・・ラビってシックスセンス持ってたんですか?』 「あいつは野生動物だ。勘が働くんだろ」 そう言うと、アレンは楽しそうにクスクスと笑った。 甘いアルトに意識を委ねそうになりながらも一刻も早く帰還する為に会話を抑えて束の間の別れを告げる。 もちろん、切る間際に愛を囁く事は抜かりなく。アレンも嬉しそうに返事を返して二人は通信を切った。 離れた場所に見える線路を視界の端に認め、瓦礫の下で沈黙する同胞に視線を移す。 血を流しながらも最期の時まで己の責務を全うしようとした探索部隊にアメンと短い祈りを捧げ、振り返る事無く歩き出した。 翌日の早朝、教団に帰り着いた神田は眉間に皺を寄せたまま長い回廊を不機嫌なブーツの音と共に歩いていた。 理由は簡単。いつもなら深夜だろうが早朝だろうが喜々として出迎えに来るアレンが、三週間ぶりに会える日の 今日に限って地下水路に見当たらなかったのだ。 任務があるのなら仕方無いと不満を押し殺すところなのだが、昨日アレンはラビに変わってもらったとその口で言っていた。 記憶に新しすぎる現実に疑う要素が無いからこそ、神田は不機嫌を包み隠さず高い音を響かせて歩く。 基本的に任務の後は機嫌の悪い神田も、帰還してアレンの顔を見ればその感情は大半収まるらしいのだが、 今回は安定剤の当人が出迎えに来なかった事でそのとばっちりが道行く人間に向かう・・・・・・筈だった。 だが、今回は“例外”に当たる日。 早朝という時間帯の所為で探索部隊や科学班の人間が回廊の何処にも見当たらず、苛つきが発散できないまま室長室に 歩調を速めた神田は『コムイの聖地☆』と札の降りている扉を見つけるなり思いの丈を込めて鉄製の扉を蹴り飛ばした。 「ひっっっ!!?」 突然の来訪者に怯えた声を上げたコムイと目が合うなり、神田は床に散らばる紙の山を踏みつけて近付く。 今にも帯刀している六幻で斬りつけそうな気迫に後ずさりながら、コムイは必死に声を上げた。 「かっ、神田君おかえり!!長い任務本当にご苦労だったねっ、さぞかし疲れただろうから今日はゆっくり休むと―――っ」 「あいつは?」 「アレン君なら自分の部屋か君の部屋か・・・あれ?出迎えに行かなかったの?あのアレン君がっ」 帰りの列車の中で作成した報告書を室長の机に叩き付け、睨み付けるように長身の男を見上げると神田は踵を返した。 呼び止めたら殺す、と書いてある背にコムイが声を掛けられる筈も無く、後には半壊した扉がキィキィと音を立てるだけ。 「うぅ・・・僕からも伝えたい事があったのに・・・グスッ。・・・・・・ま、良いか。どうせアレン君から聞くだろうし〜」 とても三十路の男とは思えない間延びした声は、雪崩れてきた紙山の中へと消えた。 アレンが居るとすれば自室、もしくは恋人である神田の部屋の二つが有力候補だが、神田は迷わず自室へと足を進めた。 アレンは神田が任務でいないとき、余程の理由が無い限りは自室で就寝しない。 では何処で眠るのかというと、それは当然・・・ 「おかえりなさい。カンダ」 見慣れた部屋、見慣れたベッド、その上で読書をしていたビスクドール。 心の奥底を許した者にだけ向ける、神田にとって何よりも甘い微笑みを浮かべたアレンは今まで読んでいた本を放り投げ、 座ったままの状態で両腕を突き出した。伸ばされた手を取らない理由は、何処にも存在しない。 細い二の腕を優しく掴み、自分の胸に華奢な身体を収める。 ベッドに押し倒し、三週間ぶりに触れる体温を貪るような口吻で確認しあい、アレンの息が乱れる頃になって 神田は名残惜しげに唇を放した。 額や頬、瞼に口付けを落としていくとアレンは嬉しそうに微笑み、またキスを強請る。 一頻り熱を与え合い、神田の手が服の裾から肌に触れたとき、アレンはあっ、と声を上げた。 苛つきの治まり掛けていた神田が訝しげな目を向けると、アレンは神田の首に両腕を回して耳元で囁いた。 「昇格、おめでとうございます」 囁かれた単語を脳内で反芻してみても、神田には意味が解らなかった。 「何の事だ?」 ベッドに縫いつけていたアレンの上から退き、目線を合わせる。 きょとんとした表情のアレンは、神田こそ何を言っているのだと目で語りかけていた。 「何って・・・コムイさんから聞いたんでしょう?」 「何も聞いていないぞ?」 「・・・あ、わかった。僕が迎えに行かなかったからコムイさんに八つ当たりして、報告書だけ押し付けて来たんですね?」 もう二十歳になったのに、と笑いかけるアレンに寸分の狂いも無く言い当てられ、神田は面白くなさそうに眉を顰めた。 「・・・それで、昇格ってのは何の話だ」 「何の比喩でもありませんよ。カンダ、あなたは元帥に昇格したんです」 酷く嬉しそうに言うアレンに対して、神田は珍しく驚いた表情でアレンを凝視する。 と言っても、常人には判らないくらいの小さな表情の変化だ。 「元帥・・・俺がか?」 神田は自分の力量を把握しているつもりでいた。 確かにエクソシストとしては古株で経験もあり、その強さはヴァチカンからも評価されている。 それでも今なお強さを追い求めて日夜鍛錬に励む自分を思い返せば、何故自分がと思えるのも仕方の無い事。 半信半疑のまま聞き返すと、アレンはクスクスと可笑しそうに笑った。 「嘘吐いてどうするんですか?今日は愚か者の日でも何でも無いですよ?」 それに、とアレンは思い出したように口を開く。 「ラビも、先日元帥の称号を受けました。僕の代わりに行ってくれた任務は元帥として初仕事だって、張り切ってましたよ?」 「ラビも・・・そうか・・・・・・」 神田の幼馴染みでもあるブックマンの後継者のラビ、彼もまた教団の古株で、ヴァチカンから評価されていた者の一人だった。 彼も元帥になったのだと聞いて、神田の中にも少しずつ実感が湧いていく。 「聞いてないと思いますけど、これからの任務は二人一組で行うそうです。隊は関係無く、 息の合う・・・背を預け合えるエクソシストを組ませて任務に向かわせるって・・・・・・」 神田はベッドに密着しているアレンの背に手を這わせ、空いている方の腕を膝裏に差し込んで膝の上に抱き上げた。 色素を失くした髪に指を絡めては放し、頬や目尻に口付けを落として先を促す。 「明日正式に伝達するそうなんですが、二人一組の基準は元帥が一人、普通のエクソシストが一人って事になるんだそうです。 あ、カンダのパートナーはもう決まってるんですよ?」 誰だと思います?と訊いてくる瞳はあまりにも幸せそうで、神田は思わず小さく吹き出した。 アレンの様子から見て取れるに、目の前の愛しい存在以外誰がいるのだろうかと神田はクツクツと喉を鳴らす。 そんな神田を見て、アレンもまた笑みを浮かべた。 「大元帥たちの配慮ですよ・・・僕をカンダから遠ざけると面倒な事になるって十分解ってますから」 高く結われている神田の黒髪に手を伸ばし、結び目を解く。 サラリと流れる漆黒の絹糸にうっとりと目を細めると、額にキスが贈られた。 「俺をお前から離すと・・・じゃないのか?」 「・・・両方、でしょうね」 微笑んで言うアレンの首筋に顔を埋め、普段は団服に隠れて見えない場所に赤い華を咲かせる。 所有の証を付けられる事を喜ぶアレンはお返しとばかりに神田の団服をくつろげ、露わになった鎖骨に唇を寄せた。 チュッと音を立てて吸うと、同じように赤い華が咲く。 白磁の肌と、象牙の肌。どちらにも鮮やかに咲いた華をお互いに見つめて笑いながら、 神田がアレンを柔らかなシーツの上に横たえた刹那、廊下へと続く扉が勢いよく開かれた―――――――――。 Next
妙な所でお話斬り付けました(笑) 突発的に書きたくなった(微)黒神田×(微)黒アレンのお話なのです!!!! しかも(当然)愛し合っているお二人!! ちょっとクールっちっくにお話進められたら良いなー!!きっと無理だなー!!! と思っております。どうなるかは未定。どう終わらせるかも未定。 『それでも良いよ、待ってるよ』というお客様、次回でお会い致しましょうvvv canon  write 05 08 12 sun → up 05 10 31 mon





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