月下、夜に舞う蝶の舞台
キシリと鳴く床を踏み、つい数日前に禿から新造へと立場の変わった部屋付きの少年が一人、夜明けの廊下を歩いていた。 廊下には手摺りが付いており、その向こうには大通りと他の娼館、そして一番遠くには吉原の大門が見える。 あれを潜ったのは、もう何年前の事だろうか。 実の両親から捨てられ、育ててくれた養父が他界したのち、養父の親戚は吉原で一番大きな遊郭にアレンを押し付けた。養父 は困っている者が居れば必ず手を差し伸べるような人だったけれど、全ての人間がそうというわけでは無い。養父が亡くなっ て途方に暮れている間、とりあえず見知らぬ土地に一人置き去りにされる以外ならば何でも良いとアレンは思っていた。 それがまさか、男の春を売る店だとは思っていなかったけれど・・・。 養父の親戚達には多額の借金があったと後で人伝に聞かされていたので、「あぁ、そうですか」と割り切れた所があったのも 事実だった。 昔の事を思い出していると、陽は徐々に位置を変えていた。つい止めていた足を叱咤して再び歩き出し、目的の部屋へと急ぐ。 禿から新造となったと言っても、朝昼晩でする事が変わるわけでは無かった。月日が経ってもまだ一本立ちは出来ないし、何 より客として来た男を悦ばせるだけの技術すら、若い新造では十分には身に着けていないのだ。 ではどうやって手練手管を極めるかと言えば、大抵は禿や新造の内から自分の仕える太夫――――【黒架楼】では“傾城”と 呼ぶ――――に一から十まで教えてもらうのが当たり前。 だが稀に、その務めを放棄してしまう面倒見の悪い傾城も居る。 アレンの仕えている傾城はその『稀』に属するなかなか我の強い青年で、そういう面倒な『稀』に当たった新造たちは気前の 良い別の傾城に教えを乞うていた。 一般的に性交で使う筈の無い器官の説明をされる日々は辛くて気持ちが悪くて仕方が無かったが、それも初めの頃に言われた 「いつか慣れる」という言葉通り、嫌悪の類は感じなくなり始めた。 それは、まだ自分の水揚げの執行猶予が半年程残っているおかげかも知れない。 実際、先に十六の誕生日を迎えて水揚げされた色子などは、「逃げ出したくなったけど仕方ない」と諦めて今では徐々に客を 付け始めているようだ。 木造四階建ての【黒架楼】は禿や新造、一本立ちして傾城となった者では寝食の階が違い、吉原の中でも随一の大きさを誇る。 一階は客人を待たせる受付のような役目を果たし、食堂も備えられている。二階からは東西で別れ、西はそこそこに客の付い てきた傾城の部屋。東は禿や新造が雑魚寝をする部屋になっている。 三階は全てが抱間(傾城と客が過ごす部屋)で、登楼(客が色子を買いに廓に来ること)した客がそれぞれ傾城の待つ部屋に 通される。他の廓では傾城の寝室がそのまま男と寝る場でもあるらしいが、黒架楼は誰が言い出したのか、いつしか寝室と抱 間が別になったらしい。 そして今アレンが居るのが、黒架楼で最も売れっ妓の傾城たちが住まう四階。アレンの部屋は未だ新造の立場でありながらあ る事情でこの階の西端に位置し、仕えている傾城の部屋は東端にあった。 距離にして五十メートルの廊下を歩き終え、閉ざされた襖の前で膝を着く。自分の主はすでに目覚めているのか、微かに衣擦 れの音がした。 「神雫(カンダ)さん、朝餉の用意が出来たと調理場が・・・」 「入れ」 襖一枚向こう側から凛とした声が響き、アレンは毎朝白い頬を薄く朱に染めていた。 「失礼致します」 慣れた手付きで襖を開け、中に入ってまた膝を着く。 部屋の主――――アレンの仕えている『神雫』は木枠の窓辺に肘を着き、明けていく空を見詰め煙管を手にしていた。 客の前に出る時は高く結い上げた長い黒髪も、今は吹く風にサラリと流されている。客の前に出る時に結うのは、客が自分で 神雫の結い紐を解きたいからだという。神雫は鼻で笑っていたが、毎朝彼の髪を結う役目を当然のように任されているアレン は、客人たちに少しの優越感と申し訳なさを感じていた。 鴉の羽が濡れたような、東洋の黒。瞳もまた同じ色をしていて、神雫の客達は皆この瞳の虜だと、神雫と同じく傾城の螺火 (ラビ)が笑いながら言っていた。 城を傾けるという言葉に相応しい、人を惹き付けて止まない美しい人。その美しさには一目見て誰もが溜息を吐くほどで、そ れは禿の頃から神雫の部屋付きをしているアレンも例外では無かった。 「お持ちしましょうか?それとも下に行かれます?」 「ここで食う。・・・その前に着替える。手伝え」 「はい」 命令に慣れた声に頷いてふわりと微笑み、座ったままの彼の夜着に手を伸ばす。 初めは照れが先立って上手くいかず苛立たしげに舌打ちされていたものだが、数年間も付き合っていれば彼が何を思っている か、僅かな表情の変化で気付くようになっていた。 夜着を肩から滑らせる際に手が肌に触れ、しっとりと汗ばんでいる事に気付いたアレンは何も言わずに席を立ち、微温湯に浸 けて絞った手拭を手に戻ってくる。 何をしていたんだ、と少し眉を寄せていた神雫にそれを渡そうとしたが受け取ってもらえず、しばし悩んだアレンは「失礼致し ます」と一言断り、神雫の素肌に手を伸ばした。 自然に縮まった距離に、アレンの心は早鐘を打つ。 吐息が髪に掛かりそうな距離で見る神雫の顔は、アレン以外ではきっと、神雫を買う男達しか知らないだろう。 雑念に囚われていたアレンが煩い鼓動が神雫に聞こえてしまわないかと危惧していたその時―――――、 「アッ」 唐突に腰から背骨のラインをスーッと辿られ、目の前の神雫の胸に縋り付いた。 急な刺激に呼吸を整えようとするアレンの頭上で、悪戯を仕出かした張本人がクツクツと咽喉で笑うのが聞こえる。アレンは 自分の出した声に羞恥を感じつつ神雫を睨め上げ、悔しそうに唇を噛んだ。 「何するんですか!」 「敏感モヤシ」 「っ!?」 態と耳に吹き込まれた声に、幼い身体はビクリと震える。 その反応が面白いのか、神雫はアレンの腰に腕を絡めて身体を密着させ、執拗に耳元で喋った。 「感度が良好で良かったな?すぐに馴染みの客も出来んだろ」 「ぁ、離して・・・くだ、さッ」 「俺が客だったら、一回くらい買ってやりたくなるな」 「っア・・・も、う!顔だけは綺麗なのにぃ・・・っ」 「あ?何か言ったかモヤシ」 「僕の名前は・・・・・ッ!」 声を荒げ、失礼なあだ名で呼び続ける神雫の胸を押して本当の名を言ってしまいそうになる。 ・・・遊郭に来るまでは実名を『アレン・ウォーカー』と養父の苗字を取って名乗っていたが、その名は遊郭に足を踏み入れ た時に捨てさせられた。 養父が与えてくれた名を捨てるのはあまりに哀しくて楼主に訴えたが、燃えるような紅い髪を持つ楼主は緩く首を振って「そ れはお前の傾城に言え」と断られた。 男の廓で働けるかどうかと誰の部屋付きにされるかは楼主が決めるが、新入りの名を付けるのは初めて仕える傾城に任されて いる。 もちろんアレンは美しい傾城にもお願いしたが、当の神雫は意地悪くアレンを『モヤシ』と適当なあだ名で呼んだ。 白くて細いから、という理由だが、ずっとこの名で生活し続けるのは客を取り出してからを思うと気分が悪い。 偶に事に及んでいる部屋の前を通れば、相手の名を呼び快感を求めるなど手練手管の内でも常識で、そうすれば相手も色子の 名を呼んで可愛がっていたのを聞いた事がある。 アレンはまだ自分が男に抱かれるなんて想像出来ないけれど、その最中に客から「モヤシ」と呼ばれたくは無いのだ。流石に。 「名前は?」 遊郭で働く者は、本当の名を口にする事が出来ない。 ニヤニヤと笑う神雫も、実際には『神雫』という名では無いのだろう。 大抵は本名に近い名を貰えるらしいが、字が変わったり多少読みが変わったりはするらしい。 そういう理由でもアレンは異質で、禿の頃から一部の“引っ込み”(禿の頃から将来売れそうだと目を付けられている色子) に苛められていた。 真っ白な髪や東洋には無い銀灰の瞳を持つ所為かも知れないが、他にも色々と理由があり、見兼ねた傾城の一人が楼主に頼ん でくれてアレンの部屋は売れっ妓の傾城たちと同じ階にされたのだ。 「・・・もう少しまともな名前にしてくれれば良かったのに」 消沈した声で言い、腰に回されていた腕からどうにか逃れる。 少し乱れた衣を整え、役目を果たすために畳に落ちてしまっていた手拭を再び神雫の肌に滑らせた。 「おはよーさん、お姫様に灰被り姫」 「っ、螺火さん!」 「隣の部屋で何やってるかと思えば・・・お邪魔だったさ?」 突然かけられた声に手拭を落とすアレンに「よぉ」と手を上げ、どこから聞いていたのか襖を開けた螺火はにこやかに笑って 部屋に入ってきた。 部屋の主である神雫は舌打ちをして手拭を拾い上げ、自ら適当に身体を拭く。螺火が入ってきた事への舌打ちしか、自分が手 拭を落としてしまった事への舌打ちか判らなかったアレンは額に厭な汗を浮かべた。 螺火は黒架楼で神雫と一、二を争うほど人気の高い傾城で、神雫のように客を選り好みしない――――十人中八人の申し出を 蹴る神雫の我儘振りがどうかしているとも言える――――事で有名な色子で名が知られている。 螺火には神雫のような艶やかさは無いが、とても社交的で華やかさでは引けを取らない。そこが気に入って二日と空けず登楼 する客も居るという話だ。 今纏っている銀朱の内掛けも派手な金赤の髪に映えていて、それはやはり神雫と全く違うけれど、白よりは余程良いとアレン は羨ましがっていた。 「お前、どこから聞いてた」 「ここの壁は下より薄いって知ってるだろ?」 ニヤニヤと笑う螺火に、アレンは居た堪れなく俯いてしまう。 先程の神雫との遣り取りも全て聞かれていたのかと思うと、今すぐ逃げ出したいような衝動に駆られた。 「ま、確かに『モヤシ』はどうかと思うさ〜、客がついた時に呼ばれたくは無ェよな」 「新造の分際に半年も先の話してんじゃねェよ」 「半年なんかあっと言う間だって」 俺達の時もそんなもんだっただろ? 大した事でも無さそうに喋る傾城の傍で、まだ一人新造のアレンは複雑な想いに駆られていた。 モヤシなんてあだ名は嫌だとか、神雫だって感度が良いから客だったら一度くらい買ってやりたいなんて言ったくせにとか、 ・・・半年なんて、あっと言う間だとか。 廓から逃げる事なんて出来ない。そんな事が出来たら、吉原の中に色子など居ないだろう。 もし逃げられたとしても廓から追っ手が来るし、何より・・・アレンのように幼い内から廓で育った色子は外での生き方を知ら ない。 そういう者は客から身請けされるか、年季が明けてからも廓に住み続け、後輩の色子の面倒を見たりするしか道は無いのだ。 暗い顔で伏せ目がちになったアレンは、二人の傾城の表情に気付かない。 三人の瞳は、それぞれに揺れていた。 「身、請け?・・・螺火さんがですか?」 「あぁ」 水揚げまであと一月と迫ったある日、神雫の部屋で片づけをしていたアレンは耳を疑った。 噂で聞いていた二日と空けず通ったり、何度も流連(朝になっても帰らず、登楼したままのこと)をしていた伯爵家の息子 から「身請けさせて欲しい」と、以前から言われていたらしい。 神雫もつい先程別の色子から聞いたらしく、褥で寝転がり、アレンに背を向けて言う様はどこか怒りが滲んでいた。 神雫と螺火は同じ頃にこの黒架楼に来たと聞いた事がある。 今でこそ犬猿の仲などと言われているが、同い年の二人は兄弟のようにも育ったのでは無いだろうか。 アレンはどこか呆然としたまま、優しい先輩・・・兄のように慕っていた螺火がこの廓から居なくなることが、まだ信じられず にいた。 神雫にもっと何か訊こうと口を開くが、ここ最近はただでさえ機嫌が悪いので迂闊に喋る事が出来ない。 その時、部屋の襖がカタリと音を立てる。 何の断りも無しにこの部屋に入ってくるのは、大勢居る廓の者の中でもただ一人だけだった。 「よっ」 「螺火さん・・・ッ」 片づけの手を止め、困惑気味に頭を下げる。 神雫は起き上がる気配も無く、アレンは少し切なかった。 「身請けのお話、聞きました。おめでとうございます」 「ん、さんきゅ」 顔を上げるように促されて、髪をクシャリと撫でられる。 猫の子供でも扱うような撫で方はアレンが初めて廓に来た時に優しくしてくれたそれと変わらず、堪らなく涙が零れる。螺 火を困らせたいわけでは無いのに、仕掛けの袖で滴を拭ってくれている間も涙は溢れ続けた。 螺火はアレンを片腕で抱き寄せ、苦笑を浮かべて背を撫でる。そして視線だけを神雫の方に向けると、その背中に小さく謝 った。 「いつだ」 「決めたのは一週間くらい前さ。話がきてたのは・・・半年は前」 身請けされる事は、色子にとって悪い話では無い。 もちろん断る事も出来るのだから、螺火は半年も悩んで、そして答えを出したのだろう。 身請けしてくれる相手に好意が無ければ、売れっ妓な色子の意思が動く筈も無い。螺火は、好きな相手と一緒にこの廓を出 る事が出来るのだ。 「何で言わなかった」 「言ったら、どうにかなったか?身請けの話を受けるか受けないかは俺の意思さ」 漸く身体を起こした神雫が振り向いて螺火を見据え、置いていた煙管に火を点けた。 胡坐を掻いて座った神雫の姿は少し寝乱れていて、アレンは目を擦りながら箪笥の中から一枚の仕掛けを取り出し、主の肩 に掛ける。 するとそのまま腕を引かれて神雫の横に座らされ、残っていた目尻の涙を指で拭われた。 「・・・宴はいつになった」 「明後日。相手がその翌日に発つらしいから、ギリギリだな」 「発つ・・・?螺火さん、どこへ・・・・・?」 「海外」 やっと止まった涙をもう溢しまいと、アレンは唇を噛む。 色子が身請けされる時、それはそれは華やかで贅沢な宴が催される。その全ての資金は身請けする相手が出し、宴の席には これまでの客や親しかった色子、従業員までもが招待され、新しい門出を祝う。 それが終われば、色子は大門をくぐり、外へと―――――。 海外なんてもう会えないかもしれないけれど、螺火にとっては幸せな話なのだとアレンは自分に言い聞かせる。 年季が明ける時になってもお気に入りの客が身請けを言い出してくれなかったりする色子の中には、然程好いていなくても 別の客に身請けされる者もいるのだ。 螺火の決断の先に待つのは、少しの寂しさと確かな幸福だろう。 「ありがとうございました・・・色々、教えて下さって・・・・・」 「ごめんな・・・。お前の水揚げまでは見届けてやりたかったんだけど・・・」 「いいえ・・・、いいえ。大丈夫です。頑張りますから」 何をだよ、と笑う螺火の笑顔は、とても晴れやかだった。 神雫は溜息を一つ吐き、櫛や簪を仕舞ってある箱に手を伸ばす。 その中から客からの貢物の一つを取り出し、目を丸くしている螺火に放り投げた。 「やる」 「・・・珍しく気に入ってたヤツじゃねぇの?この鼈甲の簪」 螺火の手にある簪は、確かにアレンがいつも神雫の髪を結うときに使っていた物だった。 物に執着しない神雫が珍しく気に入っていたようだったので、螺火も覚えていたのだろう。 「要らねェなら返せ」 「や、要る!要ります!!・・・・さんきゅー、な」 簪を一度キュッと握り締め、ヘラリと笑って自ら然程長くない髪に挿す。 「似合う?」と訊いた螺火に、神雫は「さぁな」とだけ返した。 大門の外と内、たった数メートルのその距離は、今は何よりも遠く感じられた。 「じゃあな・・・身体に気を付けろよ?」 「はい・・・お元気でッ」 数日前に散々流した筈の涙は枯れる事無く、アレンの瞳からまた大粒の涙が溢れる。 着物から洋服に着替えた螺火はどこからどう見ても『男』で、髪型や服装一つ変わるだけで少し前までの面影は無くなって いた。 宴の後片付けを手伝わされているのか、見送りに来ていたのはアレン以外では螺火の部屋付きと神雫だけ。 螺火に世話になった禿や新造は少なくないので、見送りに来れなかった者たちは皆で少ない小遣いを出し合い花を贈ったら しく、螺火を待って外に停まっている車の後部座席にはいくつかの花篭が見えた。 「外国なんかで野垂れ死ぬなよ?」 「野垂れ死にそうになったら、また戻って来るさ」 「ハッ、馬鹿かお前。・・・こんな所、『戻って来る』ような場所じゃ無ェだろ」 別れを惜しむかのように、二人の会話が切ない時間を伸ばす。 誰かが口を噤めば終わるこの時を、誰もが終わらせたく無かった。 「ラビ」 車の扉が開き、降りてきた一人の青年が導くように螺火の名を呼ぶ。 振り返ったラビの瞳には誰も見た事の無かった涙が、薄っすらと浮かんでいた―――――・・・。 漸く車が見えなくなって、一人、また一人と踵を返す。 神雫は大門の柱に背を預けてしばらく黙っていたが、やがてしゃくり上げるアレンの腕を引いて吉原の大通りを黒架楼へ と歩き始めた。 擦れ違う他の店の色子が自分の容姿に見惚れて立ち止まる事など欠片ほども気に留めず、神雫は繋いだ手の先を振り返る。 地面の色を変える滴はまだ落ち続けているようで、黒架楼の門の前で一度立ち止まると、神雫は大きく溜息を吐いた。 「お前、」 「神雫さんも・・・」 「?」 「神雫さんも・・・いつか僕より先に居なくなっちゃうんですよね・・・?」 年季が明けるのは、水揚げも済んでいないアレンより神雫の方が明らかに早い。 そんな事は訊かなくても分かっているだろうに、アレンはまるで駄々をこねる子供のように俯き、呟いた。 「こんな想い・・・神雫さんの時もしなくちゃいけないんだ」 「・・・・・・・・」 一方的に引っ張っていた手が強く握り返され、神雫は繋いだ手に視線を落とす。 まだ小さく細い指は、一月後には水揚げをされる色子とは思えない。・・・それはまだ、庇護しておきたかった少年の物だ。 目許が腫れて赤くなっているアレンの頬に手を滑らせ、顔を上げさせる。 ことりと首を傾げた仕草も、見上げてくる瞳も何もかもが幼く、神雫は空いた方の手で髪を掻きあげた。 「お前の年季が明けるまでは、居てやる」 「・・・?」 「俺がお前を送り出せば問題無ェだろうが」 「ぇ・・・ぁ、だけどッ」 「煩せぇ。もう決めた」 捨て台詞のように、けれど繋いだ手はそのまま、アレンは引き摺られるようにして廓へと戻って行った。 だけど――――、 伝えられなかった言葉の続きを、いつか言わせて欲しい。 「年季が二人とも明けたら、一緒にあの大門をくぐる事は出来ませんか?」 と・・・。
お前遊郭大好きかとよく突っ込まれます。(あぁ大好きさ) 浪漫ですよ。海賊と張り合えるくらいには! あちらが洋風ならこっちは和風だ!!と言わんばかりにね!!(煩い) この話は「吉原」という場を借りて好き放題書いています。なので実 際のシステムとは違うやも知れません。というか違います。明らかに。 そこはそれ、笑ってやって下さい。 と、言うか、この話の主役はラビか? 2006 08 05 canon
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