曖昧で、不確かで、苦しい。
求めても良いのか、求めてはいけないのか。
そうすることで得る物はなにか、そうしてしまったことで失くす物はなにか。
考えて、考えて、考えて。
§
「----- ン君!!」
珍しく手入れの行き届いていた中庭に面する廊下で足を止めていたアレンは、後方からの呼び掛けに振り返った。
そこにはティーポットやスコーンを籠に詰めたラビとリナリーが居て、ことりと首を傾げる。
「今からラビとお茶するの!! 二人じゃ寂しいし、アレン君も一緒するでしょう?」
「あ、-----」
すぐに答えを返そうとしたアレンは、賛同の為に挙げようとしていた左手を半端に停止させた。
一瞬の空白に、何を思ったのか。
「僕は報告書を纏めてコムイさんの所に行くので、残念ですけど、二人でどうぞ」
にこりと微笑んで、そうなの?と残念そうに眉を寄せるリナリーに大きな声ですみませんと謝るアレンの左手は、大きく左右に振られた。
一緒を望む筈だった手が脳に働きかけたのか。拒否を訴えた脳が手を振らせたのかは分からない。
ただアレンにも分かるのは、未だに身の振り方を決めていない自分の事だった。
§
陽の暮れた中庭に面した廊下を、月がぼんやりと照らしていた。
中庭と廊下を少ない段差で区切った場所に腰掛けたアレンは、パタパタと羽音をさせて飛んできたティムキャンピーを膝の上に招く。
指先で黄色い頭を撫でてやれば、羽をむずむずとさせて喜ぶ仕草に口許が綻んだ。
「ねぇ、ティムキャンピー」
うとうとと、徐々に羽根を畳んできたゴーレムに声を掛ける。
きっと眠ってしまうのも時間の問題だろうと思いながら。
「もっと上手く生きられるかな?」
言葉を返さないゴーレムにぽつりと零して。
「ここでなら、」
それも叶いそうな気がするんだけど。
口に出さず舌の上で転がした願いは、飴玉のように甘く、苦い思いを残して溶けた。