Flower




眉を顰める度に心配そうに顔を覗き込んでくるリナリーに  アレンは何度も「大丈夫ですよ」と返す
苦しげな呼吸は不規則に繰り返され  けれど止める術など無く
ただただ我慢して独特な痛みが過ぎ去るのを待つ  一月に一度の体調変化

「兄さんから薬貰ってこようか?」

同じ女の子だから解る痛みに  リナリーはずっとアレンの傍にいる
アレンにとっては姉のような存在だし  リナリー自身もまた  アレンを妹のように思っているから

「免疫が出来てる所為か・・・僕の身体薬効かないんです」

任務においてどんな傷を負っても気にしないアレンは  この時だけは薬を思い切り服用する
それが何度も繰り返すうちに身体の中で免疫が出来たのか  今ではコムイの作る痛み止めが効かなくなってしまった

苦笑混じりに言うアレンの前髪を払い  嫌な汗に濡れた額をタオルで拭う

「でも、一応貰ってくるわ」

カタンッと椅子から腰を上げたリナリーが廊下へと続く扉に手を掛ける
その背を見送るのが  何故か嫌で  アレンは一瞬消えていく背中に声をかけそうになった





「似てるから、かな」

自分の苦し気な息遣いが聞こえるだけの部屋  他には何の音もない部屋
まるでこの空間が扉の外から完全に遮断された異空間のような感覚
熱を出して寝込んだときと  酷く似ている
遠い過去の記憶は  こうしてベッドに仰向けになっているだけで簡単に想い出されて

寂しいような  懐かしいような

あまりにも愛おしい日々が脳裏に甦る

体調を崩してベッドにいると  何故か不安に駆られてしまう
独りなら尚更
細かい息は  まるで死に際の生き物のようで  小さく笑みが零れる

「こんな事で死ぬなんて聞いた事無いけど」


「何の話だ?」


ノックの音も無しに開かれた扉の外には  声の主
任務の帰りか  はたまた鍛錬の後か  とりあえず外は雨が降っているらしい
わざわざ服を着たままシャワーを浴びるような  そんな無意味な事をする人間では無いから

「風邪ひきますよ?」

下腹部の鈍痛を無視してベッドから起き上がろうとするアレンの肩を押さえ  神田は前髪を掻き上げる
その拍子に髪に付いていた雫がパラパラとアレンに降り注いで
少しだけ火照っていた身体には  気持ちが良かった

パサリ  と  サイドテーブルに何かが置かれる音
アレンの位置からは  何を置いたのか見えなかった

神田はアレンの頬に付いた水滴を  濡れた袖で拭き取る
拭き取れたのは良いが  やはり冷たさの残った頬に  アレンは可笑しそうに笑った

バサリと団服を脱いだ神田が  先程までリナリーが腰掛けていた椅子に座る
足を組む様はまるで王のようで  アレンはまた面白そうに笑った

「何笑ってんだ」

アレンの態度が気に入らない神田は  けれど真っ白な髪を優しく梳く
その裏腹な言葉と態度も  楽しくて  嬉しくて
頬を掠めるように触れる指に手を伸ばし  長い無骨な指をキュッと握り締める

「何でも」

無いです  と  また笑って
呆れたような声で  あぁそうかよ  と

いつの間にか消えていた不安は  居場所を無くして何処かへ行ってしまったようだ
今のアレンの心は  この上なく満たされているから

ふと  神田は思い出したようにサイドテーブルに手を伸ばした
離れた指の温もりを追って首を傾ければ  その先には青紫の花があって

「?」

先程サイドテーブルに置かれた音の正体は  おそらくコレなのだろう
だがその意図があまり解らなくて  アレンは神田を見る

「こういうのが好きだろ。女は」

悪戯に細められた瞳の奥に  驚いた顔の自分が映っているのが見える
神田が雨の中で濡れていた理由が解って  アレンは酷く嬉しそうに微笑んだ


この紫陽花のために  アレンのために  神田は雨に濡れたのだ
リボンも何もなく  装飾など一つも無いけれど


「探したでしょう?ここまでキレイに色付いて……」

無造作に折られた茎や  きっとこの時期にはあまり色付いていない筈の青紫が
彼の優しさを  アレンの中で膨らませる

「別に」

そう小さく呟くなり  椅子から立ち上がってベッドに腰掛ける
少しだけ乱れていたシーツをアレンの肩まで引き上げて着せ  フッと口許を緩めた

「眠るまでいてやる」
「眠ってもいて下さい」





小さな願いは
額への口付ける事で了承を示した















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