Water



任務帰りに熱中症で倒れてしまったアレンを担いでやってきた場所は  偶然にも都合良くあった森の湖

神田はアレンの団服を脱がせてやり  きっちり止められているリボンとボタンも外す
胸元に数日前付けた赤い華がうっすらと残っていたが  こんな場所で誰が見ているわけでもない
六幻を手の届く場所に置き  アレンを抱き上げて湖の中に入った

澄んだ水が  神田が足を進める度に波紋を描く
腕の中でぐったりとしているアレンに気を配りながら  火照った身体を肩まで水に浸した
服は濡れてしまったが  これだけの暑さなら風邪をひく事は無いだろう

アレンを支えていない方の腕を水の中にしばらく浸し  冷えた手で額や頬に触れる
閉じられた瞼が少しだけ震えて  神田はようやく安堵の息を吐いた

「モヤシ」

名を呼ばれた事で  アレンの意識はゆっくりと覚醒する
潤んだ銀灰色が漆黒の瞳を真っ直ぐ見つめ  やわらかく微笑んだ

「気持ち良い……」

神田の肩に額を押し付けて  甘えるように擦り寄って
水を得た魚のように  アレンの顔色は徐々に良くなっていった

神田の腕の中で  まるで小さな子供のように笑いながら  アレンは両手いっぱいに水を掬う
それを嬉しそうに神田に見せては  陽に照らされる水面を指差して

「こんな経験、滅多に出来ませんよね」

服を着たまま水の中に入るなんて
クスクスと笑うアレンの体力は  多分もう自分で歩けるくらい回復しているだろう

だが神田もまた  アレンと同じように思っていた
誰もいない森の湖で  ただの年頃の恋人同士のように笑い合う
生きるか死ぬかのリスクを負って闘う事が日常な毎日の中  たまにはこんな日があっても良い

アレンの脇に手を差し込んで抱き上げ  水面から腰までを出す
そのまま両腕で腰を抱き寄せれば  目の前には濡れて透けたシャツに隠れる胸元が目に留まった
口端を緩く吊り上げて薄い情事の跡を舌で辿り  消えかけている華の上に口付ける

「神田?」

胸に顔を埋めたままの神田を不思議に思い  声を掛ける
それから更に十数秒ほど経って  神田は困惑の眼差しで自分を見つめるアレンを見遣った

「あぁ、悪い」

それだけ言って  また顔を埋める
何が何だかよくわからないまま  アレンは神田の頭を抱き寄せた
フッ  と  胸元に触れる唇が  弧を描いたのが判った

「肌が冷たくて気持ちいいんだよ」

アレンの事ばかりに構っていた所為で意識していなかったが  神田も熱中症一歩手前だったのだ
ただ自分より  この少女が心配で  それどころでは無かった

「そうですか?」

頭上から小さな笑い声が降り  心地良いアルトが耳に響く
腕に抱いた少女の真っ白な髪と  水面に反射する陽光が  閉じた眼裏でキラキラと光って
あまりの眩しさに  それだけの事に  幸福を感じる

「寒くは?」
「ないです」

返事と同時に  アレンは神田の髪を高く結っていた紐を引っ張った
濡れた髪が水面に落ち  いくつもの波紋を描いて揺らめく

「本当に気持ちいいですね」

濡れ烏の羽根  どこまでも美しく光すら吸い込む漆黒
指を絡めて  梳いて  一房取って口付ける

「濡れていると」

どこか艶めかしい銀灰色に惹き付けられるまま  神田はアレンの唇を奪う
角度を変えて  濡れた髪を掻き抱いて
途切れた呼吸が聞こえ始めた頃  二人はようやく互いの顔が確認出来る位置まで離れた

「端から見たら馬鹿みたいでしょうね」

服を着たまま  水に入って  互いの唇を貪る様は  どれほど奇妙な光景か

「まぁな」

喉の奥で笑い  水で張り付いた服の裾から手を差し込めば  驚きと咎めの視線を投げられる
けれどもそんな恋人に構う事無く  神田はアレンの首筋を吸い上げた

チリッ  とした痛みに  情欲が揺れる

仕方ないですね  と微笑んだ少女は  彼の首筋にも同じ華を飾った















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