Word



想いを伝える術はいくらでもある  それをするかしないかは本人次第だが  この人はまずしない


神田ユウ


どれだけキスをしても  どれだけ肌を求め合っても  神田は愛の言葉を囁いたりはしない
でも僕はそれで構わないと思っている
周りからは  不安にならない?  ってよく訊かれるけれど
正直  不安になるという事はあまり無いんだ

愛の言葉なんて囁かなくても
神田は僕を必要としてくれているし  僕も神田を必要としている
それが周りには判らないと言うなら  寧ろそれで良いと思う

神田が僕を必要としている事は  僕だけが知っていれば良い
その逆も一緒
自分たち以外の誰かが知っている必要なんて無い





「神田」

食堂という場所で腕を組むなんて  酷く大胆な真似をしていると解っている
でも  君に集まる自分と同じ『女』の視線がイヤで
僕に向けられる羨望の眼差しは可笑しくて

「部屋に戻るんですか?」

訝しげに見下ろしてくる神田にフワリと微笑んで  絡めた腕に少しだけ力を込めた
チラリと周囲に牽制して  自身もまた浅ましい『女』だと自覚する

「僕も行って良いですか?」

断る事はほとんど無いだろうと見越して言うなんて  正直内心厭になる
けれど神田や神田に恋情を抱く人の前では  こんな醜い自分を抑えられない

もっとキレイに愛せたら良いのに  もっと素直に甘えられたら良いのに
ただ純粋に  直向きに

行動とは裏腹に小さな事で悩んでいる僕を見透かしたように  神田が頭上で溜息を吐く
知らず俯いていた顔を上げると  優しい黒曜石が僕を見つめていた

「好きにしろ」

神田は突然僕の髪をクシャリと撫でて  食堂の出口へと足を向ける
短い了解を得た僕は歓んで彼の後を追い掛ける
食堂を出るときに聞こえた彼女たちの囁き声は  キレイに無視をして










神田はベッドの淵に腰掛けたまま  僕は足の間に身体を入り込ませて  その肩に額を置いていた
神田は何も言わないし  僕も何も言わない
年頃の男女だというのに  部屋に入るなり行為に及ぶなんて真似はあまり無い
キスもセックスも好きだけれど
僕も神田も  こうして二人で居るだけで幸福に思うから

「大好き」

なんて  軽々と言えてしまう言葉は嫌い

「愛してる」

なんて  重苦しい言葉は好きじゃない
結局は  僕も君も言葉が得意じゃないんだ  ただ傍にいるだけで良いと思えてしまう
他には望まない
僕と彼は誰よりも近い存在  心地良い距離感を知っている

「いちいち言わなくて良い」

髪を優しく梳いてくれる指が  頬を包んで  キスをくれる

「言わなくても知ってるからな」





言葉なんて要らない
言葉なんて 要らない

僕たちは知っているから















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