SULM
周囲が慌しく走り回る室長室のソファで、愛しい人に横抱きにされたアレンは胸元まである白い髪を面白そうに指 先で絡めた。 事の起こりは数時間前。 任務から帰った神田とアレンはすぐにでもベッドになだれ込みたかったが、戦闘によって血や粉塵で汚れきった自 分達の姿を見て溜息を一つ吐き、「先に風呂へ行こう」という話になった。 大浴場には夕方という時間帯の為に数人の探索部隊が居たが、彼らは引き戸を開けて入って来た二人の姿に硬直し、 そして普段よりも倍速で身体を清めると一目散に浴場を後にした。 誰も口にはしなかったが――――出来よう筈も無い――――、「神田元帥とアレン殿が一緒に風呂に入るという事 は・・・」と気でも利かせてくれたのだろう。実際は風呂の後にそういう事になる予定なのだが、皆がわざわざ居なく なってくれたのならもうどちらでも良い気がして、アレンは神田よりも先に湯の中に浸かった。 その数秒後、 「うわぁあああああッ」 「な、何だこれ・・・!!!」 後方で上がった声に、湯に浸かろうとしていた神田は眉間に皺を寄せて踵を返す。 何が起こったのかは分からないが、神田に任せておけば良いだろうと判断したアレンはその背を見送った。 脱衣所の扉を開け、ピタリと静止した神田をじっと見詰める。 しなやかに付いた筋肉が綺麗だな。 今日はリナリーから貰った高い石鹸で髪を洗ってあげよう。 などと暢気に口端を吊り上げていたアレンは、一瞬後、滅多に見せない困惑と焦りの表情で振り返った恋人に目 を丸くした。 「か・・・」 神田?と問おうと口を開いたが、彼が自分に近付いてくる方が速かった。 無言で「こちらに来い」と手招きされ、素直に従う。 ザッと音を立てて湯の中で立ち上がれば、神田はアレンの身体を上から下まで一通り見て、深い溜息を吐いた。 「神田?」 湯の所為で身体に張り付いた長い白髪を払いながら、アレンは頭が痛そうに肩を落とした神田を覗き込む。 だがふと、ある事に気付いた。 ・・・・・自分の髪は、こんなに長かっただろうか。 つい最近神田に切ってもらった記憶があるので、そんなワケは無いとすぐに心の中で否定する。 ではこの現実は何なのだと訝しげに眉を顰めて視線を落とせば、そこには妙な光景が拡がっていた。 「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・神田、これ何に見えます?」 「胸だろうな」 「・・・・・神田とし過ぎて育っちゃいました?」 「いくらお前でも、あんまり馬鹿な事は言うなよ」 口許を歪めて静かに怒る神田に軽くキスをして、額を押さえていた手を“胸”と称されたものに徐に触らせる。 神田はピクリと眉を上げたが、自分でやっては現実逃避したくなるかも知れないからとアレンに言われてしま えば、諦めにも似た思いで承諾した。 触感があるので、これは間違いなく自分の身体だろう。 では何故女性の身体になっているかと問えば、おそらくはこの風呂が原因で・・・。 そこまで分かれば、こんな悪戯を仕掛けるのが教団内に一人しか居ないという事も容易く分かる。 「神田」 「あぁ」 アレンのふくよかな胸から手を離し、怒りと呆れで機嫌の悪くなった神田は傍にあった大き目のタオルでアレ ンを包み、抱き上げる。 普段より幾分軽く、そして小さくなった恋人を一度心配そうに見詰めたが、当のアレンは「どこも痛くありま せんし、平気です」と安心させるように微笑んだ。 それから脱衣所に戻って未だに慌てふためいていた探索部隊を蹴散らし、二人は衣服を身に纏って――――ア レンは何かと心配性な神田に抱かれたまま――――室長室を目指した。 途中、兄の悪戯を知って様子を見に来たリナリーが、 「せっかく女の子になったんだから、可愛くしましょう?」 と嬉しそうに提案し、嫌がる神田を余所にアレンは「良いですよ」と楽しそうに答えた。 この妙な状態がいつまで続くかも分からない間、ずっと男性用の下着では問題でしょう?とリナリー側に立って 言うアレンの言葉も尤もと言えば尤もで、今は団服を上から羽織っているので問題ないが、それを脱げばシャツ の下に何も着ていないのだ。 女性独特の胸の形は丸分かりだし、下手をすれば透けて見える。 元々が男なので本人はあまり気にならないが、教団の三分の二以上は男性団員。そして彼らは普段から三大欲求 の一つを仕方なく抑えこんでいる者達ばかりなので、元が男とはいえ、そんな姿のアレンを見れば欲情する者も 出てくる恐れがある。 ・・・・・いや、確実に出て来ると言って可笑しくは無い。 アレンは神田と恋人になる前から何人もの男に告白をされているし、神田と恋人になった直後にも襲われかけた 過去がある。男だとか女だとか関係無くアレンの容姿は目を惹くし、実際とても愛らしい顔立ちをしていて、ふ とした時の表情はハッと息を呑むほど美しく感じられる。 二人がかりで説得された神田は「好きにしろ」と匙を投げて、・・・・・リナリーの部屋から出てきたアレンを見る なり、本日何度目か分からなくなった溜息を吐いたのだった。 横抱きにされていたアレンは疲れた足を組み替え、神田の肩口に頬を摺り寄せる。 短いスカートから見える艶めかしい白い太腿に慌しく動いていた科学班の面々は赤面して動きを止めたが、数時 間前より幾分細くなったアレンの腰を抱いている元帥の鋭い視線を受けて青褪め、またバタバタと走り始めた。 クスクスと笑うアレンを睨めば、首筋に吐息が掛かる距離で「ごめんなさい」と口にする。 それも少しはしおらしくすれば良いのだが、アレンは怒る神田の表情も楽しむように笑みを含んで囁いた。 「コムイ、薬の効果はいつ消えるんだ」 「え、えーっと・・・・十日、くらい・・・かなぁーなんて」 ガンッ――――!! 目の前のテーブルを蹴り付け、神田は室長室を無言の威圧感で包む。 アレン以外の皆が恐怖に震え上がる中、唯一笑顔を絶やさないリナリーは長くなったアレンの髪を濃紺の細いリ ボンで結いながら至極不思議そうに訊いた。 「神田はアレン君が女の子になったの、嫌なの?」 「あ?」 「女の子になってもアレン君はアレン君よ?美人なまま、性格もそのまま、・・・そりゃあ、いつまでもこのまま じゃ無いのは分かっているけど、女の子なら二人の赤ちゃんだって作れるのよ?」 「俺達はエクソシストだ。ガキが産まれたりしたら邪魔なだけだろうが」 ザックリと割り切った言葉に腕の中の存在が小さく反応したが、神田は気付かず言葉を続けた。 「ただでさえAKUMAを葬るのに忙しい時世で赤ん坊なんか――――」 「神田」 ピリッと痛みを感じて言葉を切れば、同時に己の名を呼ぶ冷たい声音。 リナリーから視線を外して腕の中に居るアレンを見遣れば、痛みの原因は細い腰を抱いていた手の上にイノセ ンスを宿した手が重なり、そして爪を立てていた。 普段ならば、有り得ない。 神田は余程の事が無い限りアレンにマイナスの感情を故意に与える事は無く、それはまた、アレンも同じだった。 「・・・・て」 「アレ・・・」 「放して」 低いアルトに、騒がしかった場が一気に静まり返る。 アレンは組んだ足を下ろすと膝丈ほどあるブーツをカツリと鳴らし、振り返る事無く室長室を去って行った。 残された神田や他の者たちはアレンの背を見送った後もしばらく呆然としていたが、その空気は一人の少女に よって打ち砕かれた。 「馬ッ鹿じゃないの?やっぱり、元帥になってもこういう所は変わらないのね」 心底馬鹿にした口調で言われ、この場に一人しか居ない『元帥』は二つ下の少女睨め上げる。 「ぁあ?」 「神田、良かったわね?アレン君が男の子で。もし女の子だったら子供が出来ていたかも知れないわ」 「お前、何言って・・・」 「要するに、もし、仮に、アレン君が先天性の女の子だったら子供が出来るのが面倒だという理由で神田が アレン君を愛する事は無かった、でしょ?」 「・・・ナメた事言ってんじゃねェよ」 眼前に突き付けられた人差し指を折りかねない形相で、神田は低いテノールを響かせる。 徐々にキレていく神田がリナリーに何か仕掛けないかと科学班やコムイは積み上げられた書類や本の山の陰 から顔を覗かせていたが、リナリーは今ここには居ないパートナーの次くらいには状況回避能力に長けている。 自分から相手を挑発して誘き寄せる神田元帥、アレンのコンビとは違い、リナリー達は比較的事勿れ主義を 貫くコンビなのだ。 「少なくとも・・・アレン君はそう感じたのよ」 思った、では無く、感じた。 柔らかく、けれど少しだけ責めるようなメゾソプラノが教えるように呟く。 神田はそれでも何か言いかけて口を開いたが、少しして無言で立ち上がり、アレンの出て行った扉へと向かう。 きっと、今言おうとした言葉を告げるのは、リナリーではないと分かっていたから。 「本当に、世話がやけるわね」 苦笑混じりに肩を落とせば、辺りからも安堵の溜息が聞こえる。 振り返れば「一段落かな?」と微笑む兄と目が合い、リナリーは楽しそうに目を細めた。 室長室を出たアレンはいつも戻る神田の部屋では無く、自分用に宛がわれた部屋のベッドに久々に寝転がって いた。 懐かしいとも感じない天上を見詰め、神田の部屋の天井を恋しいと思う。 でも今は、素直になれなくて。 自分は男なのだから、神田との子供が欲しいと思った事は無い。 子供など居なくても愛する人と一緒に居ることは可能だし、何より“子供”という接点が無ければ繋がってい られない関係など、恋人とは呼べない気がした。 それに、神田の言うようにエクソシストである自分たちは、子供が生まれても普通の家族では居られない。 正しい、正しいのだ。彼の言う事は。 だけど、 哀しさを感じてしまった。 もし自分が女として生まれていたら、神田はどうしたのだろう。 同性として愛し合っている今、コムイの作った薬の事でここまで悲観的な思考に陥るのは浅はかかも知れない。 だけど、もし――――。 「アレン」 深く考え込んでいた所為か、神田が足音を立てないようにして来たのか、不意に聞こえた扉の向こうの声にア レンの肩が跳ねる。 戸惑いながらも身を起こせば、随分使っていなかったベッドのスプリングが鳴いた。 「言い訳はしねェ。・・・・・子供が居たら邪魔だと思うのは事実だ」 「・・・・・・・・・・・・・」 「だがもしお前が女で、俺との子供が出来たとしたら・・・・・それは他人が思うより、俺にとっては良い話じゃ ない」 ベッドから足を下ろし、立ち上がる。 ブーツを脱いでいた足にヒヤリと冷たさが伝わったが、アレンは構わず扉へと近付き、ノブに掛けた手を回した。 「この命に期限が無ければ・・・そう悲観する話でも無いんだろうがな」 自嘲混じりの声が、複雑に細められた漆黒の奥が、痛かった。 男だとか、女だとか、彼はそんな事に拘っているのでは無い。 自分が死んだ時に残される者は、少ない方が良いのだと・・・それは彼の酷く不器用な優しさだ。 誰よりも彼の傍にいるくせに、何一つ彼の言葉の中にある哀しさに気付かず、自分の感情を優先して。 本当に自分が厭になる。 そんなアレンの気持ちを察したように、神田はアレンの華奢な身体を抱き締めた。 優しく髪を梳かれ、こめかみに口付けが落とされる。 「あぁ・・・それとな、」 甘い音を吹き込まれ、 不意に銀灰から零れた涙も、 互いの口腔にしょっぱさだけを残して消えた。 FIN.
ごめんなさい、ごめんなさい。ごめんなさい。 中途半端に切断して不完全燃焼。 あんまり黒くならなかった様コンビ。 何が書きたかったんだ私。 この後はさすがに書けませんでした。いや、書いたけど。upはムリ。 一応『誓い〜』の番外編ですし。女体化でエロはルール違反でしょう。 それに、 前戯含めたら6P越えたなんて、 言えるか。 どんだけ濃ゆいんだ。 色々大変だったんだよ。 神田さんとか、 神田さんとか、 神田さんがさぁ・・・。 ・・・・・ごめん、不完全燃焼させて・・・ッ(6P使って不完全燃焼とか・・・) 2006 08 21 canon
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